発見!ご当地「油」紀行

第25回 岐阜県(関市)円空コロッケ

円空仏が名前の由来刃物と清流の街で生まれたコロッケ

岐阜県の中部に広がる関市。古くから、東西文化の要衝にあり、京都から飛騨に通じる交通の分岐点として関所がおかれたことから「関」の地名がついたといわれています。鎌倉時代に、刀匠がこの地に移り住み刀鍛冶を始めて以来、関は刃物の街として繁栄します。現在では、包丁、ハサミ、カミソリ、爪切り等多岐にわたる製品が作られ、世界の国々へ輸出されています。また、清流、長良川に足を運べば、伝統的な漁法である“鵜飼”を見ることができます。
そして、この地のもう一つの歴史財産が“円空”。円空上人は、江戸時代初期に生まれた僧侶で、生涯をかけて十二万体にも及ぶ木彫りの仏像を彫りつづけました。晩年を過ごした関市には、数多くの仏像が残されています。その“円空”の名を冠したコロッケがあると聞き、訪ねてみました。

鍛冶の技を今に伝える施設では、日本刀などの刃物製品や、その製造工程に関する資料を見ることができます。<写真提供:関市観光協会>

鍛冶の技を今に伝える施設では、日本刀などの刃物製品や、その製造工程に関する資料を見ることができます。<写真提供:関市観光協会>

奥長良川県立自然公園の指定を受けている長良川河畔。この場所で古式ゆかしく幻想的な伝統漁法である鵜飼が、宮内庁式部職鵜匠によって行われます。

奥長良川県立自然公園の指定を受けている長良川河畔。この場所で古式ゆかしく幻想的な伝統漁法である鵜飼が、宮内庁式部職鵜匠によって行われます。

丸く、白く、ねっとりと市民が誇るご当地のさといも

円空コロッケとは、関市で作られている“円空さといも”を使ったコロッケのこと。円空さといもは約30年前に愛知県から導入された品種「八名丸」の中から、丸い形が特徴のさといもを長年かけて増やしてできたものです。「さといもは、丸い形の方が市場価値が高いんですよ。このさといもは、芋の丸さが円空上人が作った仏像のお顔に似ていることから、その名前がついたんですよ。」と、関市の農林課の方。食感はねっとりとしており、色が白く、硬いので煮崩れしないのが特徴だそうです。煮っころがしはもちろん、カレーに入れても美味しくいただけるとのこと。
この円空さといも、一時は栽培農家の減少により、“幻の味”になりかけたそうです。「平成10年頃には、120戸ほどあった栽培農家も、一時は四分の一ほどに減ってしまったんですよ。このままでは、本当に“幻”になってしまうと思い、栽培農家を増やすことに取り組み、少しずつ増えてきているんです。」と県の農林事務所の方。
関市が誇るご当地野菜、円空さといも。市や農協ではこの味を広く知り、市民に親しみを持ってもらおうと、芋掘り体験や、小学生の食農教育、贈答用の芋の販売など、様々な企画を立てているほか、学校給食でコロッケとして出しているのだそうです。

円空上人によって掘られた“自刻像”。円空仏はデザインが簡素化されており、ゴツゴツとした野性味に溢れながらも不可思議な微笑をたたえていることが特徴です。<写真提供:関市観光協会>

円空上人によって掘られた“自刻像”。円空仏はデザインが簡素化されており、ゴツゴツとした野性味に溢れながらも不可思議な微笑をたたえていることが特徴です。<写真提供:関市観光協会>

丸い形が特徴の円空さといも。そのほとんどが、愛知県や岐阜県の市場に出荷されています。通販でも購入可能です。<写真提供:JAめぐみの>

丸い形が特徴の円空さといも。そのほとんどが、愛知県や岐阜県の市場に出荷されています。通販でも購入可能です。<写真提供:JAめぐみの>

ハート型で水平に広がる円空さといもの葉。霜が降りて、この葉が枯れてくると、収穫がはじまります。

ハート型で水平に広がる円空さといもの葉。霜が降りて、この葉が枯れてくると、収穫がはじまります。

長ねぎを使うのがポイント地鶏のコクで風味豊かに

冷凍したコロッケを食感を損なうことなく揚げるコツは、解凍せずに冷凍のまま油に入れることだそうです。

冷凍したコロッケを食感を損なうことなく揚げるコツは、解凍せずに冷凍のまま油に入れることだそうです。

関鍛冶伝承館に隣接する飲食店では、“円空コロッケ”を一年中いただくことができます。こちらの店舗は、地元の生活研究グループのお母さんたちによって運営されています。「10年ぐらい前に、給食で出されていた円空コロッケのレシピ改良を勧められたんですよ。そしたら、『岐阜県健康によい食品づくりコンクール』で優秀賞をもらっちゃって。これを広く皆さんに提供したらって勧められて、このお店を始めたのよ。」と笑顔で話す、グループの代表の方。当初、店舗運営は手探り状態であったそうですが、今では地元の方や観光客が、ゆったりと休める安らぎの空間となっています。

地元の野菜や、えんちゃん棒などと一緒に、「円空御膳」で楽しめます。こちらの御膳は、開催中のぎふ清流国体の「応援弁当」にも選定されています。

地元の野菜や、えんちゃん棒などと一緒に、「円空御膳」で楽しめます。こちらの御膳は、開催中のぎふ清流国体の「応援弁当」にも選定されています。

茹でてつぶしたさといもに、奥美濃古地鶏のミンチと長ねぎを炒めたもの、つなぎのパン粉を混ぜ、塩、胡椒で味付けします。「甘くならないように、たまねぎでなく、長ねぎを使うのがポイント」とのこと。これに、パン粉つけて冷凍しておけば、秋から冬にかけて収穫されたさといものねっとりした食感は損なわれることなく、一年中美味しく頂けるそうです。
冷凍のまま、中温の油で揚げること数分間。こんがりとキツネ色になれば出来上がりです。一口頬張れば外側はサク、中はもっちり、ねっとり。地鶏のコクと程よい味付けで、何もつけなくても美味しくいただけます。
そして、この円空コロッケと一緒にお皿に並んでいるのが“えんちゃん棒”。茹でてつぶした米に円空さといも、奥美濃古地鶏のミンチを混ぜ、塩・胡椒で味付けし、棒状にして揚げたものです。ご飯のもっちり感と香ばしさ、そして粒胡椒がアクセントとなっています。
市民が誇る円空さといもは、地元のお母さんたちの創意工夫によって大人から子供まで楽しめるメニューとなり、訪れる人たちを楽しませてくれています。

(12.10.02)

問合せは
関市役所 電話 0575-22-3131 JAめぐみの 電話 0575-23-8115
価格
円空御膳 1050円