発見!ご当地「油」紀行

第41回
愛媛県(松山市)
松山あげ(干油あげ)

いで湯と城と文学の街、愛媛県松山市の名産

四国の北西部に位置する愛媛県。瀬戸内海には大小の島々が点在し、新鮮な海の幸を楽しめるほか、年間を通じて温暖な気候に恵まれ、温州みかんや伊予柑など柑橘類の一大産地としても知られています。県庁所在地である松山市は、人口約51万人で四国最大の都市。松山城を中心に城下町として発展してきた歴史があり、正岡子規や夏目漱石など文人ゆかりの地としても有名です。
そんな松山市では、「松山あげ(干油あげ)」が地元の人々に愛されているそう。一体どのようなものなのか、現地で取材をしてきました。

市の中心部、勝山(標高132m)にそびえ立つ松山城。現存する12天守のひとつであり、人気観光スポットとして親しまれている。

松山市街には今も路面電車が走り、市民の重要な足となっている。クラシックなデザインで、レトロな雰囲気を持つ車両も現役だ。

パリッと軽く、常温で長持ち

「松山あげ(干油あげ)」は、薄く切った豆腐を油で揚げたもので、スポンジのように軽く、パリッとしています。一般的な油揚げとは異なり、水分量が非常に少ないため保存性が高く、常温で3か月も保存できるそうです。また、歴史をたどると明治初期から作られていたようですが、干したものと間違えられることが多かったため、昭和39年に地元の名をとって「松山あげ」と呼ばれ始めたそうです。

そのまま食べるとサクサクと軽い食感、汁ものに入れるとなめらかでもっちりとした食感に変わる、食感の変化が魅力的な「松山あげ」。

食感の決め手は、機械に頼らない職人技

実際に製造の過程を見せてもらいました。まずは大豆から絞った豆乳ににがりを加えて作った豆腐を厚さ3㎜ほどに切り、圧力をかけて脱水します。「その時々の気温や湿度、水温などに合わせて、大豆の浸漬時間から豆腐の切り幅、脱水割合などを変えており、機械にはできない、人の手による微調整が必要です。」と製造元の方。機械まかせではなく、長年の勘や経験が「松山あげ」づくりには欠かせないようです。脱水が終わった豆腐は大きなフライヤーに運ばれ、菜種油で三度揚げされます。最終的に水分量は3%まで減り、そのまま食べるとサクサク、汁ものに入れるともっちりとした食感に仕上がるのだそう。

浸漬した大豆をすりつぶした後、おからと分離した豆乳ににがりを加え、豆腐をつくる。

できあがった豆腐を厚さ3㎜ほどに切ったもの。気をつけないとすぐに破れてしまうほど薄い。

圧力をかけ脱水した豆腐を丁寧に重ね、さらに余分な水分を清潔な布で吸い取る。

“菜種油”で三度揚げ。工場内には香ばしい香りが漂う。

味噌汁や鍋ものの具として人気

地元の方に、「松山あげ」の使い方を聞いてみたところ、 “味噌汁の具”が圧倒的に多く、「毎朝欠かせない」「どんな味噌汁にもよく合う」という声がありました。また、“鍋ものの具”にもよく使われているそうで、「寄せ鍋、すき焼き、キムチ鍋など、どんな鍋にも合う」といった声もありました。「松山あげ」を汁ものに入れると、香ばしさとコクが加わることや、もっちりとした食感に変わることが魅力とのこと。実際に味噌汁に入れて食べてみたところ、もっちりとした食感はもちろんのこと、なめらかな舌ざわりが印象的で、ファンが多いのも納得の味わいでした。

味噌汁の具として大人気。

地元では炊き込みごはんに入れる人も。

(20.11.12)

協力
程野商店 
089-971-3233