発見!ご当地「油」紀行

第7回 福島県(会津若松市)強清水のニシンとスルメの天ぷら

勢いよく清水が湧き出るから“強清水(こわしみず)”
峠の茶屋でいただくニシンとスルメの天ぷら

天正18年(1590)に入府した蒲生氏郷が整備した鶴ヶ城。現在の天守閣は昭和40年に再建されました。

天正18年(1590)に入府した蒲生氏郷が整備した鶴ヶ城。現在の天守閣は昭和40年に再建されました。

遠くにそびえるのが会津の名峰、磐梯山。右手前が飯盛山。強清水の茶屋は飯盛山の向こうの山あいに位置します。

遠くにそびえるのが会津の名峰、磐梯山。右手前が飯盛山。強清水の茶屋は飯盛山の向こうの山あいに位置します。

会津盆地の東南に位置する会津若松市。市の中心部には会津若松のシンボル鶴ヶ城が優美な姿を見せています。白虎隊の少年たちが飯盛山(いいもりやま)で自刃したことで知られる戊辰戦争で城下は焼かれましたが、市内にはいまなお多くの史跡が残ります。この市街地から東へおよそ12km。猪苗代、郡山へと抜ける旧白河街道沿いに、会津名物三大茶屋のひとつ“強清水”の茶屋があります。名物はなんとニシンとスルメの天ぷら。山あいの茶屋でいただく海の味とはどんなものなのでしょう?

かつて海産物は干物でしか入って来なかった。
天ぷらにも山里ならではの知恵が生かされます

強清水には4軒の茶屋と1軒のそば生産者組合があり、国道49号から一歩入ると峠の茶屋の風情が感じられます。

強清水には4軒の茶屋と1軒のそば生産者組合があり、国道49号から一歩入ると峠の茶屋の風情が感じられます。

平成6年に完成した東屋。湧水は現在でも飲み水、料理の仕込み水、洗い水など生活用水として利用されています。

平成6年に完成した東屋。湧水は現在でも飲み水、料理の仕込み水、洗い水など生活用水として利用されています。

強清水は旧東山街道沿いの“お秀茶屋”、旧日光街道沿いの“一ノ堰茶屋”と並んで、会津名物三大茶屋と称されます。 山あいの雪国である会津地方では、もともと海産物を手に入れるのはむずかしいものがありました。ことに鮮魚は入手困難で、ほとんどが干物の形で入ってきました。その主なものがニシン、スルメ、昆布、棒ダラなどです。そしてここ強清水ではニシンとスルメを湧水で戻し、天ぷらでいただく料理法が定着しました。

「北海道と大阪を行き来した北前船で、北海道から身欠きニシンが運ばれました。ニシンは新潟港から阿賀野川を使って舟で会津に入ってきたのです。また江戸時代後期に会津藩は蝦夷地(北海道)の警備にあたったのですが、こうした縁もあって会津とニシンの関係が深まったのではないかと思います。」と、会津若松観光物産協会の方。ニシンとスルメの天ぷらは全国的にも珍しい食べ方ですが、強清水だけのものというわけでなく会津一円で食べられていたといいます。ただ強清水で現在ニシンとスルメの天ぷらが名物となっているのは、やはり清冽な湧水があったからではないかと考えられます。

「親は諸白(もろはく)、子は清水」と民謡“会津磐梯山”にも唄われた強清水。親が飲むと諸白(清酒)で、親不孝の放蕩息子が飲むとただの清水。子は清水。これが地名の由来といいます。「本当は強くほとばしるように清水が湧くから強清水じゃないかねぇ」と茶屋の店主。確かに清水は現在もこんこんと湧き出ていて、福島の名水30選にも選ばれているほどです。清水を汲みに来る人も数多いため、地域の協力を得て平成6年に湧水の出口にドームを設けて衛生面に配慮、東屋も完成しました。現在日々の清掃や環境保護を地元強清水の商店の人たちが中心になって行っています。

「名水で戻せば味も格別」
ニシンとスルメをおいしくいただく知恵があった。

ではどのようにしてニシンとスルメの天ぷらを作るのでしょう? 「ニシンは固い身欠きニシンで一晩湧水に浸けて戻します。スルメは大きさによって違うけれど半日から3昼夜浸けて戻すこともある」と茶屋店主。水を変えて戻していくと身がふっくらとよみがえります。このように、丸のまま水で戻して、適当な大きさに切ったニシンとスルメを天ぷらにするのですが、ここで活躍するのがまたも恵みの湧水です。「湧き水の温度は年間通して摂氏11度。この冷たさが天ぷら粉を溶くのにちょうどいい」と茶屋の女将さん。中には、薄力粉と水のみで衣を作るという店も。強清水の湧水はおいしい天ぷら作りの決め手になっていたのです。

強清水の湧水で戻したニシンとスルメは身がふっくらと。スルメの胴は食べやすいように切り込みを入れます。
強清水の湧水で戻したニシンとスルメは身がふっくらと。スルメの胴は食べやすいように切り込みを入れます。

強清水の湧水で戻したニシンとスルメは身がふっくらと。
スルメの胴は食べやすいように切り込みを入れます。

「イカやニシンは乾物だから生のものより味が濃くておいしい」と、そば生産組合の方は言います。またニシンは食べたとき腹骨が口に当たる魚です。食べやすく腹骨をすいて揚げる店、腹骨をすかずこれがニシンの醍醐味といって揚げる店ありで仕様もそれぞれ。スルメは硬めだけれど味がよく、若い人に人気だそうです。

名産のそばと揚げたて天ぷらの組み合わせ。どの店でもいただけます。
名産のそばと揚げたて天ぷらの組み合わせ。どの店でもいただけます。

名産のそばと揚げたて天ぷらの組み合わせ。どの店でもいただけます。

さて強清水のもうひとつの味がまんじゅうの天ぷらです。はじまりは、昔仏前に供えたまんじゅうを油で揚げて(火入れして)安全に食べたとか、天ぷらにすると餡がより旨さを増すからと伝えられます。ですが、まんじゅうの天ぷらはお盆や春秋の彼岸に作られることが多く「昔は油が貴重だったので季節の行事のとき特別に作ったのではないでしょうか」と茶屋の女将。

会津地方はそばが美味しいことで知られますが、ここ強清水もそばの有名どころで、強清水の茶屋はそば店として人気を集めてきました。そして、昔から育てられてきたそばを生産・管理するためにそば生産組合が誕生したのが平成元年のことです。以来毎年11月初旬にそば祭りを開催し、近年では県外からの客も多く集まるようになったとのこと。名物のそばにこれまた名物のニシンとスルメの天ぷらをのせていただく。おみやげはまんじゅうの天ぷら。強清水の伝統の味が楽しめます。

この強清水の名物、ニシンとスルメの天ぷらのレシピをご紹介します。
そばとあわせると、一層美味しくいただけます。ご当地の味をぜひご家庭でお試しください。

レシピはこちらです。⇒ ニシンとスルメの天ぷら

(09.6.12)

問合せは
会津若松観光物産協会 電話 0242-24-3000
http://www.aizukanko.com/
価格
ニシン・スルメ・まんじゅうの天ぷら 各1個80円~85円
強清水(会津若松市川東町八田)へのACCESS
電車:JR磐越西線会津若松駅の駅前ターミナルから会津バス原長谷川線戸の口原、原長谷川、
湖南高校方面行きで25分、強清水下車
車:磐越自動車道磐梯河東ICから国道49号で約5km